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大阪家庭裁判所 昭和56年(家)4464号 審判 1982年5月29日

申立人 田山孝

相手方 武山由利子

事件本人 田山洋雄

主文

本件申立てを却下する。

理由

一  申立人は、昭和五六年一〇月一日、「相手方は、申立人に対し、事件本人の養育費として毎月金五万円ずつを支払え」との調停(昭和五六年(家イ)第三七六〇号子の監護に関する処分(養育費請求)調停事件)を申し立てたが、同調停は同年一二月二二日不成立となり、本件審判に移行した。

二  当裁判所の事実調査の結果によれば、以下の事実が認められる。

(1)  申立人と相手方は、昭和五〇年二月一〇日婚姻し、同年八月一五日事件本人を儲けたが、不和となり、昭和五三年五月二七日事件本人の親権者を父である申立人と定めて協議離婚した。

申立人は、上記離婚後、事件本人と同居し、同人を監護養育している。

(2)  申立人は金融関係の会社に勤めており、申立人の収入は、日給制のため一定していないが、昭和五七年一月の手取額が金九万六九〇一円、同年二月のそれが金一六万二五八二円であり、この二か月間の平均手取月収が金一二万九七四二円である(なお、申立人の収入については、申立人が給与明細書を提出した上記二か月分しか判明しなかつた)。

(3)  相手方は電機会社にパートの工員として勤めており、相手方の収入は、日給制のため一定していないが、昭和五六年一〇月の手取額が金三万〇五五〇円、同年一一月のそれが金六万七六一五円、同年一二月のそれが金五万四四九〇円、昭和五七年一月のそれが金四万五三二五円、同年二月のそれが金六万九二九五円、同年三月のそれが金三万三一〇〇円、同年四月のそれが金七万七九九〇円であり、この七か月間の平均手取月収が金五万四三〇五円である。

なお、相手方は、現在、事実上の夫と同居している。

(4)  申立人と相手方には、上記収入の他には収入がなく、また不動産などの資産はない。

(5)  生活保護法に基づく生活保護基準額は、申立人については、事件本人と同居しているものとして算定すると、昭和五六年度のそれが金一〇万八二七三円、昭和五七年度のそれが金一一万五九九〇円であり、相手方については、単身で居住しているものとして算定すると、昭和五六年度のそれが金七万〇七九七円、昭和五七年度のそれが金七万六一三八円である。

三  申立人は、申立ての趣旨において養育費支払いの始期を明示していないが、本件審判に移行する前の調停を昭和五六年一〇月一日に申し立てていることからすると、昭和五六年一〇月一日以降の養育費の支払いを求めているものと解するのが相当である。

四  そこで、まず、相手方の養育費負担義務の有無につき判断する。

上記認定の事実によれば、相手方の昭和五六年一〇月から昭和五七年四月までの七か月間の平均手取月収が金五万四三〇五円であり、昭和五六年度及び五七年度のいずれの生活保護基準額をも下まわつていることが認められる。

ところで、親の未成熟子に対する扶養義務は、いわゆる生活保持の義務として、親が未成熟子に対して自己と同程度の生活を保持できるようにする義務であると解されている。しかしながら、現在の日本には生活保護法という法律があり、同法は、国民に最低限度の生活を保障することを目的とし、その最低限度の生活を営むに必要な生活費を、各人の性別・年齢別・世帯構成別・所在地域別等の事情を考慮して、生活保護基準額として定め、生活保護基準額に満たない収入しかない者に対しては、公的扶助としてその不足分を与えることを定めている。同法の目的及び趣旨からすると、生活保護基準額に満たない収入しかない親は、たとえ自己の未成熟子に対してであつても、扶養すべき義務がなく、したがつて、未成熟子を現に監護養育している他方の親が、未成熟子の養育費を全額負担しなければならなくなつたために生活保護基準に基づく最低生活を維持できなくなつたときは、生活保護法に基づく公的扶助を受けるしかないものと解さざるを得ない。

これを本件についてみると、相手方の収入は生活保護基準額に満たないので、相手方は事件本人の養育費を負担する義務がない。

なお、上記認定の事実によれば、相手方は、現実には事実上の夫と同居し、事実上の夫には収入があることが認められるが、事実上の夫と事件本人との間には何ら身分関係がなく、事実上の夫が事件本人を扶養する義務がないので、相手方の収入を認定するに当つて、事実上の夫の収入を考慮すべきではない。

五  よつて、その余の点を判断するまでもなく、本件申立ては理由がないので、主文のとおり審判する。

(家事審判官 今井理基夫)

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